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由無し事をたまに綴るブログです。

光害地でも狭帯域フィルターで輝線星雲撮影

STC Astro Duo-Narrowband Filter (狭帯域フィルター) を入手し、淡い輝線星雲を光害地のサンティアゴで撮影してみました。アタカマの澄んだ夜空での撮影には及びませんが、光害をカットして星雲の姿を捉えられます。

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M 42 nebula, taken in Santiago

アタカマに行けない状況下での天体撮影

チリの首都・サンティアゴは人口約600万の大都市で、光害のため4等星より暗い星は肉眼では見えませんし、淡い星雲を撮影するのも難しいです。
ALMA運用のためアタカマ高地に出張すれば澄んだ星空を撮影できるのですが、コロナ禍でALMA運用が停止しているため1年近くアタカマに行けない状態が続いていました。
このような状況を打破し、サンティアゴの自宅からでも天体写真を撮影するために、STC Astro Duo-Narrowband Filterを入手しました。

 

狭帯域フィルターとは

Astro Duo-Narrowband Filterの帯域通過特性はSTCのwebページで示されています。水素原子のHα線(λ656 nm) と二階電離酸素の禁制線 [O III] (λ501 nm) は透過し、それ以外の波長域はカットします。従って、光害 (連続光, 水銀輝線, ナトリウム輝線など) をカットし、H II領域 (電離ガスによる輝線星雲) を撮影するのに適したフィルターです。
私の所有するミラーレスカメFujifilm X-M1 に適合する形状のClip filterを台湾STCのサイトでオンライン発注し、日本に届けてもらっていました。価格は本体USD $299に送料を合わせてUSD $319。これに加えて税金が数千円かかり配達時に請求されました。これをチリに持ち帰って、X-M1に装着しました。装着方法はSTCのサイトで動画による説明があります。X-M1はサポートリストに挙げられていませんが、X-T1とあまり変わりないので、問題なく装着できました。

なお、X-M1はKolari Visionによるastro conversionを施してあります。通常のデジタルカメラは、カラーバランス調整のために赤外線カットフィルターが入っていて、600 nmより長波長の透過率が低めに抑えられ、Hα輝線に対する感度が低くなっています。
Astro conversionは、Hα輝線の透過率が高い赤外線カットフィルターに交換する改造を施したものです。この改造がないと、 狭帯域フィルターを使ってもHα輝線が写りにくいままになってしまいます。

 

試験撮影と結果

試験撮影では、光学系にBORG 67FL + 0.85x reducerを用い、ISO3200で30秒露光、6 - 10フレームをimageSynth.Rでコンポジットし、Photoshopで現像しました。
比較のため、同じ天体をアタカマで撮影した写真と並べてみます。左側がサンティアゴの自宅で狭帯域フィルターで撮影したもの、右側がアタカマでフィルターなしで撮影したものです。

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M 42 (オリオン大星雲)
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ばら星雲
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馬頭星雲

アタカマでの撮影に比べれば当然見劣りしますが、サンティアゴの自宅で撮影した割にはいい線行っているのではないでしょうか。狭帯域フィルターの効果は十分に確かめられました。

 

狭帯域フィルターは光害をカットするだけでなく、星の連続光もカットするので、アタカマでの撮影に比べて背景の星が極端に少なくなることがわかります。写真が少し寂しくなりますが、一方で天の川の星が密集した領域にある淡い輝線星雲(例:ガム星雲)などを撮影する際には役立つことでしょう。次にアタカマに行ける機会があればぜひ狭帯域フィルターを持っていって撮影したいです。