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由無し事をたまに綴るブログです。

自民党の改憲試案を読んでみた

自民党改憲試案をここで公開しているのですね。自民党は綱領で改憲を謳っていながら政権にあった53年間に渡って憲法を守り続けた護憲政党(←皮肉です)ですが、下野したのち政権を奪還できそうになったこの時期に、総選挙前に改憲試案を公表することはよいことです。では早速チェックしてみましょう。しかし縦書きPDFでコピペしづらいなぁ。

第一条 天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。

いきなり「天皇は元首」ですか。辞書によると元首とは国の首長であり、国際的に国を代表する最高機関を云うそうです。天皇を元首とすると、

第五条 天皇は、この憲法に定める国事に関する行為を行い、国政に関する権能を有しない。

と矛盾するのではないでしょうか。国政に関する権能を持たない元首って何でしょう?きっと、第五条を近いうちに削除する意図があるのでしょうね。

第三条 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。
2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。

現行の憲法は国民が国家権力に対する制約を定めたものであり、国民の義務は納税の義務, 普通教育を受けさせる義務, 勤労の義務に限定されています。対して自民党案は国旗国歌尊重の義務を設けています。でも

第十九条 思想及び良心の自由は、保障する。

と矛盾しますね。これは先に書かれている第三条を優先し、「第三条に反しない範囲での思想の自由」ということでしょう。

第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。

来ましたね国防軍改憲案の主眼はここでしょう。しかし

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。

第九条の二 3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。

とは矛盾するのでは?「国際的に協調して行われる活動」って、「自衛権の発動」ではない「国際紛争を解決する手段」を含むでしょう。自衛隊の実態に法を合わせたい意図はよくわかりますが、自己矛盾する法文を持つより、建前でも軍隊を持たない平和で安全な国と憲法で謳った法文の方が、国益に寄与すると思います。軍事リスクの小さい国って、経済的にも文化的にもメリットは大きいですよ。

第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。

「公の秩序」の定義があいまいなのですよね。国家組織の不正を内部告発することも「公の秩序に反」するとされることが心配。同様の文言は下記の条項

十三条 全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
第二十九条 財産権は、保障する。
2 財産権の内容は、公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。この場合において、知的財産権については、国民の知的創造力の向上に資するように配慮しなければならない。

にも記載されています。自由権基本的人権・財産権という重要事項に対して制約を加えようというのだから、何をもって「公の秩序」とするのか規定すべきでしょう。

第二十四条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。

何これ?家族が大切なことは個人的には同意しますが、様々な価値観がある事柄ですので、憲法で規程することではないでしょう。

その後第九十七条までは文言を現代文にした程度でほぼ現行の通りです。参議院は残したいのですね、ふーん。

第九章 緊急事態
第九十八条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
第九十九条 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。

新設の章。まあ、この手の安全保障に係わる事項を憲法に明記することは必要でしょう。気になるのは、内閣だけで緊急事態を宣言し(国会の承認は事後でもよい)、政令を制定できてしまうこと。災害や侵略に対しては、確かに国会の承認を待っていては手遅れになるので、このような規程は理解できます。しかし「内乱等による社会秩序の混乱」は事前承諾を要し事後承諾を認めない方がいいのでは?内閣が国会を「内乱をおこす反政府勢力」として緊急事態を宣言し、内閣だけで何でも進めてしまうことも、法律上は可能になってしまいますね。

第百二条 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。

あれ、天皇憲法を尊重しなくてもよくなってる。最高法規として憲法を位置づけた現行第九十七条を削除せずに、そのまま残せばよいのでは?

軽く目を通しただけでも、結構ツッコミどころが見つかるものですね。とはいえ、総選挙前に提示する姿勢はよいものですので、ぜひ他党も見習って欲しいです。