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由無し事をたまに綴るブログです。

自宅で観察するシャドウバンド

自宅で巣ごもりしていたら、リビングの壁でシャドウバンドを観ることができました。※微妙なので拡大して1080pで見て下さい。


Shadow Band at Home 20200503 

※より見やすい動画に更新しました。

 シャドウバンドとは太陽光のシンチレーション

シャドウバンドとは、皆既日食の第2接触の直前および第3接触の直後、太陽が細く見えた状態で起こる現象です。2019年7月にチリで起こった皆既日食を初めて観察したのですが、そのときに地面に明暗のパターンが生じるのを観ました。「シャドウバンド」と呼ばれる現象であることを、同僚のIさんに教えていただきました。
この明暗のパターンは、大気中の屈折率の揺らぎによるシンチレーションで、星の瞬きと同じ現象です。大気中の屈折率は対流などによって局所的に揺らぎが生じるので、大気が場所によって凸レンズ状になったり凹レンズ状になったりして、星の光を集めたり分散したりします。この凹凸のパターンが風で流されると、星の光が見かけ上変化します。これがシンチレーションです。


Betelgeuse - focused

ベテルギウスの瞬き:1/10倍速スローモーション

 

シンチレーションが起こる条件

夜空の恒星は瞬いて見えますが、惑星はほとんど瞬きません。恒星はほぼ点状であるのに対して、惑星は数秒角から数十秒角の視直径をもつからです。大気の屈折率揺らぎの空間スケールをD, 観測波長λ, 光源の視直径をΘとして、Θ < λ/D がシンチレーションが見える条件です。太陽は視直径が約1800秒角あって惑星よりもさらに大きいですから、通常はシンチレーションを生じません。皆既日食の直前・直後に細くなって、幅がλ/Dより小さくなるとシンチレーションが生じてシャドウバンドとして観測されます。光源がスリットのように線状なので、シャドウバンドも線状になります。

 

皆既日食でないシャドウバンド

この日は、近所の建物屋上にある円錐状のガラスに太陽光が反射して、ちょうど線状の光源としてリビングを照らしました。ガラスと自宅の間の屈折率揺らぎによってシンチレーションが起こり、壁にシャドウバンドが投影されたのです。わずか2分間ほどの現象でした。

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近所の建物屋上にある円錐状のガラスに太陽光が反射した線状の光源

なお、屈折率揺らぎの空間スケールDが小さければ1800秒角の太陽でもシンチレーションは生じます。海やプールのさざなみで水底に明暗のパターンが生じるのもシンチレーションです。


百合ヶ浜の浅瀬を泳ぐ

この参考動画で、海底に太陽光の明暗パターンが網目状に映っているのが分かると思います。これも一種のシャドウバンドと思えば、別に珍しい現象ではないです。ただ、太陽が丸いままだとシンチレーションは等方的で、方向性をもつシャドウバンドとはやや趣が異なりますので、やはり自宅でシャドウバンドを観察できたのは稀な機会だと思うことにします。

 

自宅に巣ごもりしているからこそ発見できることもあるのですね。