学生への奨学金給付を、企業への株式投資のようにできないか、と考えてみました。貸与型の借金を返済するのでなく、利用者が卒業後の収入に応じて「配当」を出資者に出すのです。高収入なら出資者の利回りが高くなりますし、低収入の場合利用者の負担は小さて済みます。
現在の奨学金の問題点
学生支援機構の「奨学金」事業はほとんどが貸与型で、実態は教育ローンです。利用者は利息を付けて返済する債務を負います。もし十分な収入が得られなかったら、奨学金破産という事態に陥りかねません。奨学金を利用した本人にとって悲劇であるだけでなく、学生支援機構にとっては不良債権となりますし、社会にとっても損失です。これは「奨学金」が実際には借金であって、返済の義務を本人(あるいはその家族)という小さな経済規模が背負うとことで、リスクを増やす構造になっています。
給付型の奨学金が希望者に十分供給できればよいのですが、原資をどう調達するかという問題になります。学生支援機構の奨学金貸出額 (2016年度) は1兆0945億8300万円だそうですので、これを政府予算(つまり税金)から給付すると、一般会計の「文教及び科学振興費」5兆3580億円の2割を占めることになります。覚悟があればできない話ではないと思いますが、「不公平だ」という批判に応えるだけの論理が必要でしょう。
投資としての奨学金
そこで、奨学金を投資事業として再検討してみます。高等教育によって収入が増えることは統計的には明確ですので、教育はリターンが期待できる投資です。ただし個人の単位に細分するとリターンに対するリスクが相対的に大きくなります。
これは、会社の起業に似ています。企業は事業に必要な資金を株式や社債を発行して調達し、得た利益から配当や償還によって出資者に報います。個々の会社は赤字になったり倒産するリスクがありますが、経済界全体で見ると企業は収益を産んで社会が回っていますから、多数の企業に分散投資することでリスクを減らすことができます。
企業への株式投資と同様に、奨学金を学生への投資事業としてはどうでしょうか。株式の配当と同様に、奨学金利用者が卒業後に得た収入に応じて、利用者から出資者へ配当(例えば年収の2%…上場企業の配当利回りと同程度)を出すのです。生涯年収を平均2億5千万円とすると配当総額は500万円ですので、奨学金の平均利用額299万円を上回ります。出資者にとって、総じて利益が得られる投資です。低収入の人からは出資金を回収できないリスクがある一方で、高収入になった人からは出資額を上回るリターンが期待できます。ですから出資者は奨学金利用者を真剣に目利きするでしょう…株式投資の際に真剣に銘柄を選ぶのと同じことです。将来のリターンを期待させられるだけのやる気示す学生ほど、投資型奨学金を受けるチャンスを得ます。一方で、不測の事態で無収入になってしまった場合でも利用者に債務は残りません。
出資元になり得るのは?
このような株式投資型の奨学金ファンドに出資できるのはどのような機関でしょうか。株式投資と異なる点は、出資から回収までの期間が数十年と長期にわたることです。従ってそれだけの長期投資に堪えるだけの機関が出資元足りえます。
政府
すでに所得税として年収に応じて個人から徴収する機関(税務署)を持っているので、配当回収漏れのリスクが小さいです。奨学金利用者の所得税率をx%上乗せすればよいのです(xは利用額に応じて決める)。投資に必要な資金も国債で低利に調達できる一方で、長期的には回収できるわけですから国庫にもプラスになります。難点があるとしたら、奨学金利用者の選考があまり得意ではなさそうなことでしょう。
日本年金機構
徴収した年金積立金の運用先として、GPIFが奨学金へ投資するというモデルです。ここも個人の年収を把握しているので政府と同様に運営しやすいです。政府に比べれば利用者の選考は多少ましかも。