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由無し事をたまに綴るブログです。

「35mm換算焦点距離」を止めよう

永くヤードポンド法固執してきた米国において、メートル法(SI単位系)に移行しようと提案する大統領候補者が現れたそうです。国際社会のルールに合わせ、単位の違いによる混乱を無くそうという提案で、歓迎します。大統領に誰が選出されるかに拘わらず、このような前向きな提案はぜひ採用して頂きたいです。

このニュースを耳にして、写真の画角を「35mm換算焦点距離」という変な量で表している写真業界の悪癖を思い出しました。


写真を撮影するときに、写せる範囲を角度で表したものを画角と言います。例えばこの写真は画角180°で、半球面を一度に写せる対角魚眼レンズを使って撮影したものです。

一方こちらの写真は焦点距離180 mmの望遠レンズを使って撮影したもので、5° x 7°.5 の画角です。

画角 (θx, θy) はレンズの焦点距離fと撮像素子の大きさ (Dx, Dy) で決まり、θx = 2 Arctan( Dx/2f ), θy = 2 Arctan( Dy/2f )という関係を持ちます。上記の180 mm望遠レンズの写真は、撮像素子のサイズが (Dx, Dy) = (23.6 mm,15.6 mm) のカメラを使っていますので、θx = 2 Arctan(23.6/2/180) = 0.131 rad = 7°.5 となるわけです。

日本では計量法によって、角度の単位に使えるのは、ラジアン、または度分秒と定められています。カメラの写野(画角)は縦と横を角度で表すものですから、ラジアンまたは度分秒で示すべきです。

ところが写真業界には焦点距離をもって画角を表す慣習がはびこっています。画角は焦点距離だけでは決まらず、撮像素子のサイズも与えないと決まりません。しかし標準的に使われてきた35 mm判フィルム(135フィルム, 撮像素子サイズ24 mm × 36 mm)を基準にして、画角を焦点距離で表す悪癖がまかり通ってきたのです。

撮像素子サイズは決して135フィルムが標準とは言い切れません。フィルム主流の時代でも6x7判とか645判とかAPSのようにさまざまな撮像素子サイズがありましたし、デジタルカメラの時代では撮像素子のサイズはカメラによって多種多様です。焦点距離をもって画角を言い表すのは無理があります。

撮像素子が多様化した現代こそ、画角は分かりやすく角度で表すべきです。しかし写真業界は焦点距離で表す悪癖に阿って、「35mm換算」という表記を持ち出しました。例えばこのカメラの仕様において「レンズ」の項目には、「f=6.4mm〜25.6mm(35mm判換算:25mm〜100mm相当)」などと書かれています。これは、レンズの焦点距離に、135フィルムサイズと撮像素子サイズの比を掛けたものです。例えば焦点距離180 mmのレンズに23.6 mm x 15.6 mmの撮像素子を使った例だと、35 mm換算の焦点距離は 180 mm x (36 mm / 23.6 mm) = 275 mm ということになります。35mm換算の焦点距離は、35mm換算.com というサイトで計算できます。

この「35mm換算焦点距離」という値は焦点距離でも何でもなく、計量法に反する表記です。撮像素子が小さいほど「35mm換算焦点距離」は大きくなるので、望遠レンズのように大きく写る(実はトリミングして写野を小さくしたようなものなのに)と誤認させる可能性があります。

焦点距離は、被写体の角サイズと焦点面上での大きさとの比を表す重要な値であり、撮像素子のサイズで増減するものではありません。被写体深度も口径と焦点距離によって決まるもので、「35mm換算焦点距離」は混乱の元になります。

写真業界におかれましては「35mm換算焦点距離」という悪い慣習を断ち切り、米国がSI単位系に踏み出すのに先んじて、画角を角度で表すように改めることをお勧めします。

ついでに、天文業界ではびこっている magnitude (等級), parsec (パーセク), AU (天文単位), light year (光年) などの非SI単位も滅びてしまえばいいと思います。